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アメリカの2年制大学 コミュニティカレッジで教える講師
講師自身の受けた教育が不十分、講師経験の浅い講師ばかり、給料が少ない、いつでもクビにされ得る、教育研修や福利厚生もない、大学運営に関われない、たまにしかキャンパスに来ない、授業を受け持つ期間の終わりが教え子との縁の切れ目。
そのような講師ばかりの学校だったとしたら、良い教育は受けられるでしょうか。アメリカでは、そのような学校では質の高い大学教育は受けられないと一般的に認識されています。
アメリカの大学においては、教育の質を維持・向上させることが学生に対してもっとも重要なことであり、各教授やスタッフの責務であると捉えられています。そしてそのためには、長期的な視点で大学や学生に本気になって関われる、フルタイム講師の割合を増やすことが重要だと広く認識されています。
しかしながら、アメリカのコミュニティカレッジでは、パートタイムあるいは臨時採用(Contingent)の講師が全体の大半を占めています。パートタイムとは日本の感覚で言えばアルバイト、臨時採用とは契約社員やアルバイト、パートなどのことです。
パートタイムで教える際の給料は、時給制ではなく1コース、あるいは1単位当たりいくらといった給料設定であることが一般的です。コミュニティカレッジにおいては、パートタイム講師が全授業のうち58%を受け持ち、フルタイムとパートタイムを含めた臨時採用の講師が全講師の70%を占めています(Center for Community College Student Engagement)。日本で言う正規雇用(分かりやすく言えば正社員)の講師は、残りの30%に過ぎません。
さらに、コミュニティカレッジにおけるパートタイム講師の数は減るどころか、2003~2009年の間に10%増加しています。同期間に、フルタイム講師の数は2%しか増加していません。コミュニティカレッジのパートタイム講師への依存が進んでいます。
フルタイム講師のうち、博士号取得者が18%、修士号取得者が66%である一方、パートタイム講師のうち、博士号取得者11%、修士号取得者が67%となっています。コミュニティカレッジでは4年制大学と異なり、博士号取得者の割合が非常に少ないですが、特にパートタイム講師としては10人に1人しか博士号を取得していないことがわかります。
コミュニティカレッジの講師の大半を占めるパートタイム講師の多くは、講師経験が浅い講師たちとなっています。経験年数が1年未満のフルタイム講師はフルタイム講師全体の2%に過ぎないのに対して、経験年数が1年未満のパートタイム講師のそれは9%を占めています。
大学と言えば、大学教授が授業をしているイメージが浮かんでくるかもしれません。しかしながら、コミュニティカレッジの講師のほとんどは、実際には教授ではありません。パートタイム講師のうち、教授は7%しかいません。フルタイム講師においても、教授は26%のみです。その他のほとんどは講師(Instructor)であり、准教授や助教授もごく少数です。
コラム:なぜコミュニティカレッジにおいてパートタイム講師が増えているのか?
フルタイム講師の重要性が叫ばれていながら、なぜコミュニティカレッジにおいてパートタイム講師の割合が増加しているのでしょうか。その理由は、コミュニティカレッジの財政面にあります。
コミュニティカレッジは州立の学校ですので、元々は州政府からの資金支援により運営されています。そのため、地元住民であれば、州政府からの資金援助を受けて割安な授業を受けることができます。しかしながら、不景気のときには日本でも政府の支出が減るように、アメリカの州政府も不景気のときには出費を減らします。
アメリカのほとんどの州政府は、昔ほど潤沢な税収を得られないため、コミュニティカレッジを含む州立の学校への資金援助を減らす傾向にあります。2003年にはコミュニティカレッジの全収入の32%が州政府からの資金援助であったのが、2012年には23%に減少しています(United States Government Accountability Office)。
それでは、州政府からの資金が先細る中、各学校はどのようにして収入を確保しようとしているのでしょうか。1つ目の対策として、アメリカ全体を通して見れば、学生が直接支払う授業料からの収入に依存する傾向が顕著です。コミュニティカレッジの収入全体における授業料からの収入が、2003年の17%に対して、2012年には25%に上昇しています。
州立の学校でありながら、実際には州からの援助はますます先細り、学生からの授業料への依存傾向が強まっています。これでは、実質私立大学と変わりません。このことを、コミュニティカレッジの私立化(Privatization)と言います。実際には、コミュニティカレッジだけでなく4年制大学においても、州立大学の私立化が進んでいます。
しかしながら、授業料のアップだけでは不十分です。むしろ、コミュニティカレッジは州の法律により授業料の増加を制限されていることが多いため、他の方法でのコスト削減も不可欠です。
そこで活用されているのが、パートタイム講師や臨時採用講師です。
パートタイム講師や臨時採用講師であれば、正規雇用のフルタイム講師と比べて費用もかからずに雇用できます。州財政に余裕があるときは柔軟に臨時講師を増やし、逆に州財政が逼迫しているときは契約を更新しない、あるいはすぐにリストラを行うなどして学校財政を安定させることができます。
地元の貧困層の学生にも平等に高等教育を受けられるチャンスを与えることがコミュニティカレッジの使命ですから、安く柔軟に採用できるパートタイム講師や臨時採用講師が活用されるのは、コミュニティカレッジ運営にとってはある程度合理的と言えるのかもしれません。
参照:HIGHER EDUCATION State Funding Trends and Policies on Affordability December 2014, United States Government Accountability Office、2016年8月9日データ抽出